妻恋う鹿は笛に寄る

初夏の作品

妖精

菜の花の撮影をしていたら、花と花の間に小指の先ほどの人間の形をした妖精がいた。うっとりするようなかわいい女の子で、
白いシルクでできた布のようなものを羽織っていて、僕の方を見ていた。僕は見てはいけないようなものを見てしまったような気がして、構えていたカメラを外して、目をこすって見つめた。


こういうのはそっとしておいてあげた方がいいと思って、その場を立ち去ろうとすると、妖精は待って下さいと言う。
「あなたにはこの先困難が待っているので、これを持って行って」
小さな声で囁いて、爪楊枝の先のようなフルートを手渡してくれた。
「あなたには幸福になってほしいの。前世で私はあなたの恋人だったから。次の世界で、あなたは人間になり、私は妖精になったの。あなたはこれまで本当に苦労したわ。そして、これからも…」
そう言って少し悲しそうな目で見た。


僕はどう答えていいものか悩んだが、その言葉を受け止めることにした。
「このフルートを持っていると少しは苦労しなくなるのかい?」
そう尋ねると、妖精は首を横に降った。
「私は力の小さな妖精で、このフルートはお守りのようなものなの。大事に持っていてね」
手のひらに載せたフルートは春風に吹き飛びそうになり、思わず握りしめた。手の力で壊れそうな繊細な細工のもので、そっと包み込むように握った。
「またいつか会えるのかな?」

 

そう尋ねると
「本当は会ってはいけないの。だから、もう二度と会えないと思う。私は妖精の掟を破ったので、今度は昆虫になるの。でも、あなたと少しでも話せて良かったわ。前世であなたは私をとっても大事にしてくれたもの」
そう言うと、妖精は姿を消した。


僕は目をこすってもう一度見つめてみたが、花が揺れているだけで何もいなかった。花と花の間を花の蜜を吸うために、蜂や蝶が飛んでいるだけだった。僕の手のひらの中には、小さなフルートが確かにあった。僕は壊さないようにそっと持って帰って、柔らかい布で包んで今でも大事に持っている。