澄んだ闇
人間には闇があって、いい
曇った闇と澄んだ闇とあって
澄んだ闇がいい
漆黒の闇の奥に星空が見える
人間には輝きがあって、いい
曇った輝きと澄んだ輝きとあって
曇った輝きがいい
曇った輝きは人に優しい
妖精
菜の花の撮影をしていたら、花と花の間に小指の先ほどの人間の形をした妖精がいた。うっとりするようなかわいい女の子で、
白いシルクでできた布のようなものを羽織っていて、僕の方を見ていた。僕は見てはいけないようなものを見てしまったような気がして、構えていたカメラを外して、目をこすって見つめた。
こういうのはそっとしておいてあげた方がいいと思って、その場を立ち去ろうとすると、妖精は待って下さいと言う。
「あなたにはこの先困難が待っているので、これを持って行って」
小さな声で囁いて、爪楊枝の先のようなフルートを手渡してくれた。
「あなたには幸福になってほしいの。前世で私はあなたの恋人だったから。次の世界で、あなたは人間になり、私は妖精になったの。あなたはこれまで本当に苦労したわ。そして、これからも…」
そう言って少し悲しそうな目で見た。
僕はどう答えていいものか悩んだが、その言葉を受け止めることにした。
「このフルートを持っていると少しは苦労しなくなるのかい?」
そう尋ねると、妖精は首を横に降った。
「私は力の小さな妖精で、このフルートはお守りのようなものなの。大事に持っていてね」
手のひらに載せたフルートは春風に吹き飛びそうになり、思わず握りしめた。手の力で壊れそうな繊細な細工のもので、そっと包み込むように握った。
「またいつか会えるのかな?」
そう尋ねると
「本当は会ってはいけないの。だから、もう二度と会えないと思う。私は妖精の掟を破ったので、今度は昆虫になるの。でも、あなたと少しでも話せて良かったわ。前世であなたは私をとっても大事にしてくれたもの」
そう言うと、妖精は姿を消した。
僕は目をこすってもう一度見つめてみたが、花が揺れているだけで何もいなかった。花と花の間を花の蜜を吸うために、蜂や蝶が飛んでいるだけだった。僕の手のひらの中には、小さなフルートが確かにあった。僕は壊さないようにそっと持って帰って、柔らかい布で包んで今でも大事に持っている。
キーマカレー
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世の中には
格好良い奴もいる
頭の良い奴もいる
お金持ちの奴もいる
要領よくやれる奴もいる
運の良い奴もいる
僕は・・・・と考える時
いつもうつむいてしまうけれど
僕の持っているもので精一杯やれるのは
この世で僕自身だけだと思っている
誰も代わりはできないしやってももらえない
この身体まるごとで表現することに誇りを持とう
やれることはたくさんあるはず
持っているものもたくさんあるはず
生かしきれていないなら、それは自分の把握不足
いいところもそうではないところもまるごとふくめて
気持よく精一杯のことをやっていこうではないか
それでいいんだよ、それで・・・
お姫様と吟遊詩人
あるところに美しいお姫様がいました。人づきあいが苦手で、王様が近隣の名だたる名士を招いて舞踏会を開いても、なかなか出席しようとはせず、お姫様にひと目会いたい若い名士たちを、いつもがっかりさせていました。
森の入り口の林の荒屋に吟遊詩人が住んでいました。愛の歌、人生を詠んだ詩を歌いながら、薪にする枝を拾い細々と暮らしていました。
ある日、お付きのものを引き連れて、そっと森を散策している間に、皆とはぐれてしまい、森の中をさまよいました。森の中には獣たちはいるし、盗賊たちも寝ぐらにしていたので、お姫様のような美しい人がさまよっていると、格好の餌食となって、ひどい目に合わされるのは時間の問題でした。
心細くなって夜も暮れていこうとしている時に、運良く吟遊詩人に見つけてもらい、お城まで連れて帰ってもらったのが出会いでした。二人はすぐに打ち解けて、昔から知っていた友人のようにたくさん語りながら歩きました。お姫様は森でさまよっていたことも忘れるぐらい、楽しいひと時を過ごしました。
お姫様と吟遊詩人の間には身分の違いを越えて、絆ができようとしていました。お姫様はお付きのものの目を盗んでは、吟遊詩人に会いに行きました。身の危険も感じる林まで会いに行きました。二人に恋が芽生え、欠かせない人になるまでにそう時間はかかりませんでした。
抱きしめ合いながら、詩を詠んだり芸術の話をしたり、森に咲く花の話をしたり、話題は尽きることがありませんでした。その日も夢中になって、語りあっているうちに固く抱きしめ合い過ぎて、吟遊詩人はお姫様の腕の中で息絶えてしまいました。
慌ててお姫様は吟遊詩人が息を吹き返すように手を尽くしましたが、帰らぬ人になってしまいました。嘆き悲しむお姫様は森の中へ穴を掘って、吟遊詩人の亡き骸を埋めてしまいました。お姫様はその後、毎日のように泣きながら埋めた場所へ花を持っていき、吟遊詩人の死を悼みました。二度と帰って来ない日々。お姫様の通った場所には一本の道ができていました。
そういう日が長く積み重なって、お姫様は盗賊に見つかって半死半生の目に合わされて亡くなってしまいました。無くなる寸前に、これで吟遊詩人のそばに行けると、涙をこぼして命果てました。
そうやって長い輪廻転生の末に、二人は片時も離れることなく、何かの関係になって巡り合い、愛を深めていくのでした。