妻恋う鹿は笛に寄る

初夏の作品

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

雨の情景Ⅰ

雨が降るから君に会いに行く 鈍色の雨の中を 群青色の傘をさして ゆるやかな坂道 電線の鳩 芽吹いた蓬 何年経っても 扉の前で高鳴る鼓動 襟を正して扉をノックする 君の部屋は透明な湖の底のように静かで 掛け時計の乾いた音 尾鰭を揺らす金魚 本棚の詩集 世…

約束の場所

それは夢のよう温度のない水の中で溺れている金色の光は溢れどこまでも届かない指先 記憶の片隅にあなたの面影 どこかで出会ったことのある安らかなほほ笑み それはモノクロのよう不思議な縁は細く繋がっている見失うことは常でそれでも歩き続ける宿命 火影…

誰のものでもない世界を僕らは生きている

荒い呼吸のまま転がっている焼けついた魂の慟哭 干からびた大地から水を吸い上げようともがく植物の祈りにも似た力 満たされない世界を僕らは生きている欠けているものを補い合う為に 孤独を背負ったまま歩いている錆びついた魂の血の味 群れることを捨てた…

想いが届く日

朝の光を浴びて今日一日が始まる 難しく考えることはない私にはきっとできるはず 困難なことも痛みもいつか退散する 種を蒔いていこう来たるべき日の為に 雨の日も晴れの日も恵みの一日になる 今日の想いが届く日がいつかやってくる

素敵なこと

言葉で伝えきれない 想いがあるなんて なんて素敵なことでしょう

世界は一つという大きな嘘

窓辺に寝転がって、ガラス玉に光を翳してみる。世界は一つという大きな嘘を信じたいがために、武器を捨てることにした私は、世界の片隅で詩を詠んでいる。 詩人は職業ではなくて、生き方であると言いたげに、できそこないの詩らしきものを詠んでは、紙飛行機…

プロローグ

渡り鳥が迷わず戻ってくるように 季節になると必ず花が咲くように それは自然なことだった