妻恋う鹿は笛に寄る

初夏の作品

雪見だいふく

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座るときには、僕が右側、君が左側に座ることがいつの頃からか習慣になっている。それは、僕が右側にいる方が安心感持てるからっていう理由からだった。どうして?と聞くと、理由は分からない。ただ、安心できるのと言う。

君がそう言うのであれば、そうしようと何気なく決めたことが、もう10年経ち、違和感なく、居心地よく、二人は過ごしている。

僕は隣にいる君の顔を見ていると、幸せな気持ちになる。いつも通りのことは、大切にしていないと、いつもどおりではいられない日が来る、はかないことだと思っている。だから、型にはまっていることに喜びを見出している二人の関係を大切にしたいと思っている。

よく考えてみると、おひなさまも向かって右側がおひな様、左側がお内裏様だから、同じ方向から見ると、私たちと同じである。でも、私たちにとって上座下座という概念ではなく、ただ安心感持てるポジションというところからである。 どちらかというと、僕がボケてて、君が突っ込み役なので、日本から昔からあるボケと突っ込み役の立ち位置でも、理に適っていると言える。

君は小さい時から雪見だいふくが好きで、僕は仕事の帰り道に、ドラッグストアで1つ買って帰るのが習慣になっている。そして、二人ともお風呂から上がった後に、テーブルに並んで座り、僕が右側を、君が左側を1つずつ分け合って頂く。それもいつの頃からかの習慣になっている。僕は専用のフォークで頂き、君はお気に入りのフォークを使って頂く。

喧嘩していて口をしばらくきかない時間があっても、この時間がリセットの時間で、また元に戻れる。もちもち食感の生地に、冷たいクリームが巻き込まれている魅惑のアイスミルク。 君が好きだという理由で、食べ始めた私も、すっかり雪見だいふくの虜になってしまった。

それは、まさしく君の魅力に虜になった私の姿とダブる。口の中でとろけるアイスが喉元を優しい甘さで流れ落ちていく。 季節を選ばない美味しさ。

テーブルのある部屋には東側に大きな窓がある。窓の向こうには四季の花を植えて、めでている。雪見だいふくを頂きながら、植物の話を語り合いながら、季節折々の話題を話す二人。 この時間がいつまでも続けばいいなと願う。