妻恋う鹿は笛に寄る

初夏の作品

雨の情景Ⅰ

雨が降るから君に会いに行く

鈍色の雨の中を

群青色の傘をさして

 

ゆるやかな坂道

電線の鳩

芽吹いた蓬

 

何年経っても

扉の前で高鳴る鼓動

襟を正して扉をノックする

 

君の部屋は透明な湖の底のように静かで

 

掛け時計の乾いた音

尾鰭を揺らす金魚

本棚の詩集

 

世間からは遠く

隔絶されたような空間で

日常を語り合う

 

麻の生地でできたシャツ

白い肌

桜の香りのハンドクリーム

 

それは優しさとあたたかさと淋しさでできている

 

雨の日は好きなのだけど

一人でいると淋しくなるの

そう君は言う

 

意志の強い横顔

弱さで繋がっている糸

優しい眼差し

 

雨が上がったら

菜の花を見に行かないか?

春色の景色を見ながら

 

本当は好きだけど苦手なものってたくさんある