妻恋う鹿は笛に寄る

初夏の作品

他の人に見えているものが見えなくなってしまった。変化に対応できずに戸惑ったままの孤立感。そういう状況はひどく寂しい。一つ分かっていることは、そういう時に身の回りの自然はとても優しいということだ。砂ぼこりを巻き上げるような強い風、花びらの上で光る雨粒、一羽一羽鳴き声の違う鳥たち、水たまりの中の風景、道端で死んでいた蝶。そっと揺れながら入ってきて、心の中で開いていく。心の中で揺れていて、すっと外に開いていく。今は何も手につかず、誰にも語ることなく押し黙っている。土を触り、水を触り、死んだものに触れ、生まれたものにそっと触れている。見えないものを見ようとせずに、見えるものを自然に受け入れよう。息遣いを感じながら、一日一日生きていけたらそれでいい。